遠い夏 ── 『一冊の小瓶』と『朝の詩』から磯貝裕美さんの詩を読んでみる 第13回

産経新聞の一面最上段に掲載される『朝の詩』を楽しみにしている。いや、今は「していた」と過去形で書く方が正しい。もう何度も書いているが、選者を詩人の新川和江先生が担当されておられた頃に比べて、掲載作品のレベルが格段に落ちた。落ちただけではなく、掲載作品の内容や掲載対象者に明らかな偏りが見られるようになって久しい。おそらく、新聞社や現選者の先生にもいろいろ事情や都合があるのだとは思うが、毎日毎日他人の日記や備忘録のような「詩」を読まされる方の身にもなってほしい。「日常を詠んだ詩」は当然あり得るが「日常をただ書き連ねただけの文章」は断じて詩ではないと俺は考える。断っておくが、そういう文章を書くことが悪いと言っているのではない。産経新聞には『朝晴れエッセー』や『談話室』のような散文を対象にした投稿欄もあるんだから「そちらへどうぞ」と言いたいだけだ。今はかろうじて「ある目的と楽しみ」があるので毎朝チェックしているが、それがなければ、現状のような『朝の詩』などさっさとスルーしたいというのが俺の偽らざる本音だ。もういい加減にしてほしい。うんざりだ。
などと悶々としていたら、今朝の紙面を確認すると、久しぶりに敬愛する詩人磯貝裕美さんの作品が掲載されていた。梅雨空の鬱陶しい朝だったが、気持ちがどんどん晴れ渡って行くのを感じながら何度も読み返した。
「遠い夏」
磯貝裕美
フレーズを
何度も 何度も
口ずさんでみた
──君が返してくれた
ロセッティの詩集。
風をみたことなんて
あるわけないけど、
潮風のように
君は吹き過ぎていった
栞のページに
今も 君がいる
出典:『朝の詩』(産経新聞 令和3年/2021年7月1日)

磯貝裕美さんは後書きでこの詩集を「あまく すっぱく ほろにがい”一冊の小瓶”」と呼んでいる。
磯貝裕美(いそがい・ひろみ)さんのプロフィール
1963年愛知県生まれ。
1995年「詩とメルヘン」において、イラストレーターとしてデビュー。
おもに詩の挿絵を手がける。
2005年より、産経新聞「朝の詩」に詩の投稿をはじめる。
掲載詩、多数。
作品集に『MENUETTO─16歳の花帽子』(サンリオ)がある。
数行読み進めるだけで、磯貝裕美さんの詩だとわかるこの心地よいタッチと語感に酔い痴れた。そして、この一篇がクリスティーナ・ロセッティへのオマージュとなっていることがうれしかったし、俺の敬愛する二人の詩人が、200年という時空を超えてこういう形で繋がったということに感動を禁じ得ない・・・。ということなので、今宵は「へべれけOK・本気飲みモード・祝杯バージョン」へ一気突入してみる。明日の仕事? うーん、とりあえず今は考えないでおくよ(笑)。
尚、今回ご紹介させていただいた「遠い夏」は『朝の詩』所収の作品なので、記事タイトルを「『一冊の小瓶』と『朝の詩』から磯貝裕美さんの詩を読んでみる」とさせていただいたことをお断りしておきたい。
第12回へ戻る:名前・手紙・物干し場 ── 『一冊の小瓶』と『朝の詩』から磯貝裕美さんの詩を読んでみる 第12回
第14回へ行く:空 ── 『一冊の小瓶』と『朝の詩』から磯貝裕美さんの詩を読んでみる 第14回

↑ 大変お手数ですが、 ワンクリック のご支援をお願いたします! 「にほんブログ村ランキング」に参加しています。みなさまの ワンクリック のご支援が何よりの励みになります!
- 関連記事
-
-
【改訂・完全版】 どこでもない場所 / THE NOWHERE ── ヴァレリー・アファナシエフの詩を読んでみる 2021/10/19
-
あらかじめ失われた場所 / THE NOWHERE ── ヴァレリー・アファナシエフの詩を訳してみる 2021/08/01
-
遠い夏 ── 『一冊の小瓶』と『朝の詩』から磯貝裕美さんの詩を読んでみる 第13回 2021/07/01
-
どこでもない場所 / THE NOWHERE ── ヴァレリー・アファナシエフの詩を読んでみる 2021/05/30
-
【改訂版】 Advice to a Girl / 女の子へのアドバイス [覚えておいてね、この真理を ── サラ・ティーズデールの詩を訳してみる 第6回] 2021/05/11
-