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What are Heavy? Sea-sand and Sorrow / どちらなの? ── クリスティーナ・ロセッティの詩を読んでみる 第6回

12 Comments
さえき奎(けい)
「高い」と「深い」の違いは何だろう?「『高い』と『深い』の違いは何だろう?」 Canon EOS 5Ds R, EF24-105mm F4L II IS USM, f16, 1/250sec., ISO100, WB:Daylight
 今日は穏やかな一日だった。ソラ的には、一度だけちらっと見上げたソラに、ちぎれ雲が見事な「心」の字を描いていたのを見たくらいかな。「これは何かの啓示か?」と思って慌ててカメラを取りに走ったんだけど、こういうケースで間に合った試しがないんだよね(笑)。
 突然思い立って、というかたまには「企画もの」をやらなきゃということなんだけど、久しぶりにクリスティーナ・ロセッティの詩をご紹介してみようと思う。かなり有名で広く読まれ、愛されている小品なんだけど、俺も高校時代からもう何百回読んだだろう・・・。


"What are heavy? sea-sand and sorrow"

Christina Rossetti

What are heavy? sea-sand and sorrow:
What are brief? to-day and tomorrow:
What are frail? Spring blossoms and youth:
What are deep? the ocean and truth:



出典:"SING-SONG – A Nursery Ryme Book"(クリスティーナ・ロセッティ童謡集)1893年 所収
What a Heavy
アーサー・ヒューズによる"SING-SONG – A Nursery Ryme Book"のオリジナル挿絵

「どちらなの」

クリスティーナ・ロセッティ

どちらが重いの、
海のすなと悲しみと。

どちらがみじかいの、
きょうとあすと。

どちらがもろいの、
春の花と青春と。

どちらがふかいの、
海と真理と。



(三井ふたばこ 訳)

出典:『少年少女世界文学全集 第50巻 世界少年少女詩集/世界童謡集』所収 (昭和37年/1961年 講談社刊)

はま砂と悲しみと」

クリスチナ・ロセッティ

はま砂と悲しみと どっちが重い
あすの日とけふの日と どっちが短い
春の花と若さとは どっちがはかな
大海おほうみと真理とは どっちが深い。


(入江直祐 訳)

出典:『クリスチナ・ロセッティ詩抄』所収 (昭和40年/1965年 岩波書店刊)

「なにがおもいの」

クリスティーナ・ロセッティ

なにが おもいの   うみのすなと かなしみ
なにが みじかいの   きょうと あした
なにが もろいの   はるのはなと わかさ
なにが ふかいの   おおきなうみと しんじつ


(安藤幸江 訳)

出典:『クリスティーナ・ロセッティ シング・ソング童謡集』所収 (平成14年/2002年 文芸社刊)


 クリスティーナらしい佳作だと思う。前回のI Wish I Were A Little Bird / 望み ── クリスティーナ・ロセッティの詩を読んでみる 第5回で好評だった羽矢謙一氏の訳を探してみたんだが、残念ながら見当たらなかった。著名な、三井ふたば子氏(詩人西条八十氏の長女)訳とともに、入江直祐氏、安藤幸江氏訳を比較鑑賞してみてほしい。
 しかしこのような小品であればあるほど、一旦誰かの翻訳を目にしてしまうと、自分自身の翻訳は困難を極めるだろうなとということは想像に難くないんだよね。俺自身が何度も経験しているんだけど、言葉の重複を避けよう、違う表現にしようという意識の方が先立ってしまって結局不自然な訳になってしまうことがしばしばあった。人間は機械じゃないんで「それじゃ一度メモリーをクリアします」なんて訳にはいかないんだからさ(笑)。
 具体的にいうと"frail"の訳は、おそらく最初に訳したと思われる入江氏の「儚い」意外はあり得ないと思う。「花がもろい」なんて普通の日本語では言わないからね。何故に三井ふたば子・安藤幸江両氏が揃ってこの不自然な「もろい」を採用したか、その辺りの真相はわからないんだけれど・・・。
 しかし"sorrow"と"tommorrow"、"youth"と"truth"の韻の美しさもさることながら、対比も意味深なものがあるよね。さんざん酔っ払っちまっている今の俺だったら

どちらがイカの塩辛に合うの、
ホワイトラムと芋焼酎と。

どちらがミモレットに合うの、
カヴァとヌーボーと。

なんてやってしまいそうだ(笑)。あ、ごめん、クリスティーナ。君にモヒートもどきスペシャルを献杯!

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さえき奎(けい)
Posted byさえき奎(けい)

Comments 12

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さえき奎(けい)
さえき奎(けい)  
Re: いいねえ

ひねくれくうみんさん、こんにちは。いつもコメントありがとうございます。

> 詩には不調法な私ですが、何だかシミジミしてしまいます。特に、春の花と若さ。やはりこれは「儚い」ですよね。きれいと言われるときは短か過ぎて…なのですよ。

やはりそうですよね。私の経験からいうと「『儚い』と『美しい』は限りなくイコール」
だと思います(笑)。

https://7cascades.blog.fc2.com/blog-entry-292.html

>  今日は、何を食べるの?寒いから鍋か煮物?ビールの次は焼酎のお湯割り?それともロックで?な~んて。

鍋や煮物、いいですねえ・・・。でも、とっておきのキングサーモンを解凍してしまった
のでマスタード焼きにでもしようかな・・・(笑)。

2020/04/12 (Sun) 18:25 | EDIT | REPLY |   
さえき奎(けい)
さえき奎(けい)  
Re: 詩の訳と雲

花おばさん、こんにちは。いつもご支援ありがとうございます。
>
> そう、あ!いい感じ撮っておこう!と思った時は、もう、手遅れ。
> ・・と先日も、あのイソヒヨドリ君を撮り損ねました。

そうですね。私がたまに撮る「面白い雲」は、たまたまカメラを持って他の被写体を
撮っていた時の偶然の産物であることが多いです(笑)。

> なんだか、私には、あの”魔笛”の光景に見えてしまいました。
> 雰囲気的にですが・・。

ちょっとおどろおどろし過ぎでしたかね(笑)。

> そうですね~。訳は、人の数ほど、微妙にニュアンス違ってきますものね。 でも、いずれも、もとの英語には戻らない。
> 特に心情を表現する詩などは、それがはっきりと分かれます。その訳された方のその時の状態で。
> 何故この訳し方?と感じた時は、その方がどうしても、その表現にしたかったというその人なりのこだわりがあるのやも。

そのとおりだと思います。ただ、翻訳ではなく原詩を読んだとしても、その人の
ネイティブランゲージでない限り、頭の中で一旦日本語に置き換えますので事情は
あまり変わらないような気がします。日本語の詩であっても、人によって、また
その時の精神状態によって、その言葉、フレーズの受け止め方は違って来ますから、
むしろ翻訳の問題というよりも、他人の表現の解釈の問題といった方がよいのかも
知れないですね。

> 英語ならではの韻遊びは、あえて日本語にせず、そのままの音を楽しむのが、私は好きです。

私も基本的にはそうです。特にロセッティの"SING-SONG"のような詩集なら、特に
そう思います。

> 最後のさえき様のひねり訳・・・とってもチャーミングでした。^▽^

ありがとうございます、本当は4行あるんですが、そこまでやってしまうと悪ノリに
なるのでやめました(笑)。

2020/04/12 (Sun) 18:18 | EDIT | REPLY |   
さえき奎(けい)
さえき奎(けい)  
Re: 奥深い記事の内容です

がちょーさん、こんにちは。いつもご支援ありがとうございます。

> いやー、詩が奥深い!

そうですね。たった4行の詩に、国や時代を越えてこれだけの奥深さを感じさせるのは
本当にすごいことだと思います。

> こういう詩はウイスキーのロックを飲みながらしみじみと、聞き惚れたいブログ記事でもありましたね☆

あ、いいですね。彼女はイギリスの詩人ですから、バーボンではなくてスコッチで(笑)。

> 水曜ロードショーのCMのジャックニコラル?
> そんなcMの一場面を思い出しましたよ

どんなCMなんでしょうか? 気になります。

> 今回のブログは渋いでしたv-272

ありがとうございます。多分渋いのはロセッティや翻訳家の方だと思います(笑)。

2020/04/12 (Sun) 17:48 | EDIT | REPLY |   
さえき奎(けい)
さえき奎(けい)  
Re: タイトルなし

美香さん、こんにちは。いつもご支援ありがとうございます。

> 問い掛けの素敵な深い詩ですね♪

はい。美香さんならおわかりいただけると思いますが、言葉のチョイスが研ぎ澄まされて
いて素晴らしいですね。

> 憧れるなぁ…。

私的には「誰が風をみたでしょう」や「橋」よりも好きかも知れませんね。

> もろい…は、花は折れやすく
> 青い心も折れやすい、ということなのでしょうか…

「もろい」を主体に据えるととそうなるでしょうが、やはりここは、自然に春の花や
青春の「儚さ」と読む方がすっきりするような気がしますね。

> 花が春なのは青春に合わせたのでしょうか…

そうでしょうね。ここの部分の訳は三井ふたばこさんが出色だと思います。

> 気付けば私も問いかけ( *´艸`)
> なんとなく、そう思いました😃💦

英詩の鑑賞だけではなく、複数の翻訳を比較してああでもない、こうでもない。私なら、
いや俺なら・・・などとやるのが楽しいんですね(笑)。

2020/04/12 (Sun) 17:36 | EDIT | REPLY |   
さえき奎(けい)
さえき奎(けい)  
Re: タイトルなし

くろすけさん、こんにちは。いつもコメントありがとうございます。

> ちぎれ雲の見事な「心」。。の撮り逃し。。それは、悔しかったですね。くろすけも昨日は、同じ思いをしました。(((^^;)

ありゃ、そうだったんですか(笑)。くろすけさんとは本当によく行動や失敗が
シンクロしますね(笑)。

> クリスティーナの詩、深いですね。
> 死を意識した方の感性って研ぎ澄まされたものがありますね。それも若くして。。。

はい。当時は今のように医学も発達していませんでしたから、病弱な彼女にとって
死は本当に切実で身近なものだったと思います。

> 詩などの世界に全く縁することのなかったくろすけの人生、こんな課外授業がメチャクチャ楽しいです。ものを捉える目が、心が豊かになりそうです。

世間的にあまり知られていない(といってもクリスティーナは有名ですが)詩人を
少しでも知っていただきたいと思って始めた企画です。よろこんでいただいたなら
何よりです。

> ありがとうございます。

こちらこそ、本当にありがとうございます。

2020/04/12 (Sun) 17:25 | EDIT | REPLY |   
さえき奎(けい)
さえき奎(けい)  
Re: 儚いでしょうネ。

オグリン♪さん、こんにちは。いつもコメントありがとうございます。

> もろいは、情緒がない。

確かにそうですね。花の命が短いことも「もろい」ではどうかなという感じですね。

> ただ、問いかけとして他の二編は成功しているかも。

そうですね。入江さんも、この一篇が短詩であるが故に文語訳に徹底出来ずに中途
半端な訳になっているような気がします。この詩は元々子供向けの詩集に収録された
ものですから口語訳の方が似合いですね。

> こんな比較はとても楽しいなぁ。

はい。羽矢謙一氏の訳を読んでみたかったのですが、残念です。

2020/04/12 (Sun) 17:17 | EDIT | REPLY |   
ひねくれくうみん  
いいねえ

詩には不調法な私ですが、何だかシミジミしてしまいます。特に、春の花と若さ。やはりこれは「儚い」ですよね。きれいと言われるときは短か過ぎて…なのですよ。

 今日は、何を食べるの?寒いから鍋か煮物?ビールの次は焼酎のお湯割り?それともロックで?な~んて。

2020/04/12 (Sun) 15:20 | EDIT | REPLY |   
花おばさん  
詩の訳と雲

こんにちは。

そう、あ!いい感じ撮っておこう!と思った時は、もう、手遅れ。
・・と先日も、あのイソヒヨドリ君を撮り損ねました。

なんだか、私には、あの”魔笛”の光景に見えてしまいました。
雰囲気的にですが・・。

そうですね~。訳は、人の数ほど、微妙にニュアンス違ってきますものね。 でも、いずれも、もとの英語には戻らない。

特に心情を表現する詩などは、それがはっきりと分かれます。その訳された方のその時の状態で。

何故この訳し方?と感じた時は、その方がどうしても、その表現にしたかったというその人なりのこだわりがあるのやも。

英語ならではの韻遊びは、あえて日本語にせず、そのままの音を楽しむのが、私は好きです。

最後のさえき様のひねり訳・・・とってもチャーミングでした。^▽^

2020/04/12 (Sun) 14:34 | EDIT | REPLY |   
がちょー  
奥深い記事の内容です

詩人のさえき奎さま、こんにちは^^
いつもご支援もありがとうです

いやー、詩が奥深い!
こういう詩はウイスキーのロックを飲みながらしみじみと、聞き惚れたいブログ記事でもありましたね☆

水曜ロードショーのCMのジャックニコラル?
そんなcMの一場面を思い出しましたよ
今回のブログは渋いでしたv-272

2020/04/12 (Sun) 12:31 | EDIT | REPLY |   
美香  

こんにちは♪いつもブログ訪問、応援ありがとうございます♪

問い掛けの素敵な深い詩ですね♪
何度も読み返したくなるさえきさんの気持ちが、分かる気がします。
憧れるなぁ…。

もろい…は、花は折れやすく
青い心も折れやすい、ということなのでしょうか…

花が春なのは青春に合わせたのでしょうか…

気付けば私も問いかけ( *´艸`)


なんとなく、そう思いました😃💦

2020/04/12 (Sun) 10:59 | EDIT | REPLY |   
まっ黒くろすけ  

ちぎれ雲の見事な「心」。。の撮り逃し。。それは、悔しかったですね。くろすけも昨日は、同じ思いをしました。(((^^;)

クリスティーナの詩、深いですね。
死を意識した方の感性って研ぎ澄まされたものがありますね。それも若くして。。。
詩などの世界に全く縁することのなかったくろすけの人生、こんな課外授業がメチャクチャ楽しいです。ものを捉える目が、心が豊かになりそうです。
ありがとうございます。

2020/04/12 (Sun) 07:58 | EDIT | REPLY |   
オグリン♪  
儚いでしょうネ。

もろいは、情緒がない。

ただ、問いかけとして他の二編は成功しているかも。

こんな比較はとても楽しいなぁ。

2020/04/11 (Sat) 23:27 | EDIT | REPLY |   

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