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May / 五月 ── クリスティーナ・ロセッティの詩を読んでみる 第9回

4 Comments
さえき奎(けい)
Ah, Pleasant May!"Ah, Pleasant May!" Canon EOS 5Ds R, EF24-105mm F4L II IS USM, f11, 1/250s, ISO100, WB:Daylight
 本日は、敬愛するクリスティーナ・ロセッティの作品から「逝ける五月への鎮魂」として"May"(五月)というタイトルの一篇をご紹介させていただきたいと思う。前回掲載の"Another Spring"(また来る春)と同様にクリスティーナが20代半ばの頃の作品なんだが、彼女の死生観が垣間見えるような美しくも切ない一篇なんだよね(参照:Another Spring / また来る春 ── クリスティーナ・ロセッティの詩を読んでみる 第8回)。少々長くなるが、羽矢謙一氏、橋川寿子氏、入江直祐氏、三者三様の名訳を読み比べ、味わっていただければ幸いだ。

 例によって拙訳を載せてみようという無謀な考えもしないでもなかったんだが、思い止まった。いくら俺だって、そのくらいの理性と分別は持ち合わせているんだよね(笑)。


"May"

Christina Rossetti

I cannot tell you how it was,
But this I know: it came to pass
Upon a bright and sunny day
When May was young; ah, pleasant May!
As yet the poppies were not born
Between the blades of tender corn;
The last egg had not hatched as yet,
Nor any bird foregone its mate.

I cannot tell you what it was,
But this I know: it did but pass.
It passed away with sunny May,
Like all sweet things it passed away,
And left me old, and cold, and gray.



「五月」

クリスティーナ・ロセッティ

どんなだったか言えないの
だけど私は知っている
五月は生れたばっかりで 晴れわたった五月の空に
そよ風の吹く日のことだった
まだひなげしは麦の葉の
あいだで生れていなかった
最後の卵も まだかえってはいないので
鳥はみな その連れ合いのそばにいた

何であったか言えないの
だけど私は知っている
陽気な五月と連れ立って 楽しいすべてと連れ立って
過ぎ去って行ったあのことを
残った私は大人になって 冷たくなって 味気ない



(羽矢謙一 訳)

出典:羽矢謙一著 『また来る春に会えるなら ロセッティ詩集』所収 (サンリオ 昭和56年/1981年刊)


「五月」

クリスティーナ・ロセッティ

どんなだったか言えないけれど
でもこれだけは知っている。それがやって来たのは
明るく風のそよぐ日
五月もまだ早いころだった。ああ 美しい五月!
柔らかい麦の穂のあいだに
芥子けしの花もまだ萌えいでず
最後に生まれた卵もまだかえらず
一羽も つがいの鳥を残して死んではいなかった。

なんであったか言えないけれど
でもこれだけは知っている、過ぎ去ったことだけは。
晴れた五月とともに、
すべての美しいものとともに過ぎ去った。
いまや老いて凍える白髪の私を残して。



(橋川寿子 訳)

出典:橋川寿子著 『クリスティーナ・ロセッティ 叙情詩とソネット選』所収 (音羽書房鶴見書店 平成23年/2011年刊)


「五月」

クリスチナ・ロセッティ

いかにと問はば 語らざれども
心に知るは ありしとぞ――
うらら日照りの そよ風の
五月さつきたのしき はじめ頃、
浅黄の麦の葉隠れに
罌粟けしの若芽は まだえず、
かへりおくれし卵抱く
とり妻鳥つまどりむつみあふころ。

何をと問はば 語らざれども
心に知るは 消えしとぞ。
五月晴空 よろこびの
みな去る頃に消えゆきて、
わびしきわれは 老いこごえつつ。



(入江直祐 訳)

出典:入江直祐著 『クリスチナ・ロセッティ詩 抄』所収 (岩波書店 昭和15年/1940年刊)


  第8回へ戻る:Another Spring / また来る春 ── クリスティーナ・ロセッティの詩を読んでみる 第8回  


  次回へ続く:掲載時期未定  



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さえき奎(けい)
Posted byさえき奎(けい)

Comments 4

There are no comments yet.
さえき奎(けい)
さえき奎(けい)  
Re: 切ない詩ですね

くうみんさん、こんにちは。いつもコメントありがとうございます。

> 5月と言えば明るいイメージですが、こんな切ない詩もあるんですね。

はい。第一連で高らかに五月讃歌を歌いあげておいて、第二連でどーんと現実に引き
戻しているんですね。人によって様々な受け止め方が出来ると思います。

> 私は2番目の橋川寿子様の訳がいいかな?私も白髪が気になるもんで。

まあまあ、白髪頑張って生きて来たという勲章ですよ(笑)。

2023/05/29 (Mon) 19:51 | EDIT | REPLY |   
さえき奎(けい)
さえき奎(けい)  
Re: タイトルなし

がちょーさん、こんにちは。いつもコメントありがとうございます。

> おはようございます。
> 読み比べも、しみじみと聞き入りました

ちょっと長い記事になってしまいましたが、ありがとうございます。

> 訳し方によっても、言葉が変わりますね。

そうなんです。それがまた翻訳詩の魅力でもあるんですけれどね。

2023/05/29 (Mon) 19:37 | EDIT | REPLY |   
ひねくれくうみん  
切ない詩ですね

5月と言えば明るいイメージですが、こんな切ない詩もあるんですね。
私は2番目の橋川寿子様の訳がいいかな?私も白髪が気になるもんで。

2023/05/29 (Mon) 13:59 | EDIT | REPLY |   
がちょー  

おはようございます。
読み比べも、しみじみと聞き入りました
訳し方によっても、言葉が変わりますね。


2023/05/29 (Mon) 07:42 | EDIT | REPLY |   

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