A Toadstool Comes up in a Night / 毒茸と楢(オーク)の木 ── クリスティーナ・ロセッティの詩を読んでみる 第4回

画像出典:「ベニテングダケ」(2019年7月5日 (金) 03:38 UTCの版)『ウィキペディア日本語版』

童話の絵本などによく登場するキノコだ。毒キノコではあるが、一般に思われているような猛毒ではない。毒成分であるイボテン酸は、うま味調味料などに使用されるグルタミン酸ナトリウムの約16倍の旨味成分としても知られており、日本の一部地方では塩蔵して毒性分を弱め、食用としているところもある。
今朝雨戸を開けると目の前の庭に褐色のキノコが生えていた。それも一本だけ。昨夕雨戸を閉めた際には確かになかった。いやあ、キノコが一夜で生えて出るってのは本当なんだなと思った。暈の直径が7~8cm、高さが10cmあるから決して小さなキノコではない。ちょっと調べてみたら、ヒロヒダダケあたりに似ているんだが、俺にはとても同定できるような知識も経験もない。せめて写真だけでもと思ったが、蚊に刺されるのも嫌なのでそれっきり忘れていたら、夕方にはもう萎れていた。しかし、キノコというか菌類って何とも不思議な生物だよね。植物でも動物でもない。珍味として重宝されているものがあるかと思えば、少量でも死に至る猛毒成分を含むものもある。何なんだ、こいつらって・・・?
断っておくが、俺は根っからのキノコ大好き人間なんで、別にキノコに毒づいている訳じゃない(笑)。マツタケの国産ものなんて、もう何年食していないだろう。特ア3国(特定アジア3国、つまり中国・韓国・北朝鮮のこと)産のマツタケなんぞは死んでも食いたくないので、買うとすれば必然的に北米産に限られてしまうんだけれど、香りの強さではなかなか捨てたもんじゃないんだよね。ただその香り自体が国産ものとはちょっと違うんだが、土壌とかの違いがあるので仕方ないね。シイタケ、マイタケ、ホンシメジ(「ブナシメジ」じゃなくて「ホンシメジ」だからね。マツタケと同様人工栽培は不可といわれていたんだけど、最近栽培ものが出回るようになってきたのはうれしい)、ナメコ、キクラゲ、エリンギ(これってヒラタケの仲間なんだってね。ヒラタケって水っぽくてどう料理しても不味いのにえらい違いだ)などなど大好きだ。ただ、野生種で見分ける自信があるのは食用ではマツタケとマイタケとタマゴタケとナラタケ(北海道ではボリボリという)、毒キノコだとベニテングダケ、テングダケ、ドクツルタケ (猛毒)、シロタマゴテングタケ(猛毒)くらいだ。だからそれ以外のキノコには絶対に手を出さない。
"A Toadstool Comes up in a Night"
Christina Rossetti
A toadstool comes up in a night, ──
Learn the lesson, little folk: ──
An oak grows on a hundred years,
But then it is an oak.
「毒茸と
クリスティーナ・ロセッティ
覚えておいてね、子供たち
百年育った
それでも、その
(さえき奎 訳)
出典:"SING-SONG – A Nursery Ryme Book"(クリスティーナ・ロセッティ童謡集)1893年 所収
訳者注:"Oak"とは、落葉樹である楢(ナラ)、即ちヨーロッパオーク(ヨーロッパナラ)のことで、常緑樹である樫(カシ)"Live Oak"とは別種の樹木である。明治時代の翻訳家が落葉樹の「オーク(ヨーロッパナラ)」を「樫」と誤訳して以来それが踏襲されているケースが多々あるようだ。残念なことに英和辞典の中にもこの誤訳を採用しているものが多い。本稿では植物学的見地に基づいて「楢(なら)」の訳を採用し、読みを「オーク」とした。

アーサー・ヒューズによる"SING-SONG – A Nursery Ryme Book"のオリジナル挿絵
残念なことにこの作品には、西条八十氏や三井ふたばこ女史の訳はなかったので、大変僭越ながら拙訳を掲載させていただいた。有名ではないが『クリスティーナ・ロセッティ童謡集』を初めて読ん以来未だに心に残る小品で、多くの示唆に富みイマジネーションを喚起させる印象的な一篇だ。尚、原典所収の作品にはタイトルがつけられていないので、原詩、訳詩とも訳者が仮題を掲出している。併せてご了承いただきたい。
ちなみに一般的に食用キノコを意味する英語の"Mushroom"とは別の単語で、主として毒キノコを指す"Toadstool"は「
[追記:2019年8月28日 12:01]
「それでも、その木は楢(オーク)なの」の意味がわかりにくいというメールを頂いたので、少し補足させてもらう。この詩が英国の諺"Great oaks from little acorns grow."(「オークの大樹も小さなドングリから」という意味で「偉大な人物も最初から偉大であった訳ではない、いろいろ努力や苦労を重ねた結果なのだ」との教え)を念頭に書かれたであろうことは想像に難くない。そして英国において楢(オーク)の大樹は"The monarch of the forest"(森の王者)と崇められ、国家を代表する樹木とされているということが背景にある。従って、最も標準的な解釈をするとなれば「百年経って『森の王者』になったんだけれど、それでもやっぱり元はドングリから育った『楢の木』であることには違いないの」ということになるだろうか。ただ、小品なだけに「一夜で生え出る毒茸」と「百年かかって育つ楢の木」の比較から「学問に王道なし」とか「付け焼き刃」といった浅学菲才を戒める意味、あるいは「実るほど頭を垂れる稲穂かな」などと同じく大成しても謙虚さを失わないことへの教訓と捉えるなど、様々な解釈が成り立つと思う。そういった意味でも懐の深い作品だと思う所以である。
以上のことを踏まえて、拙訳に少々手を入れさせてもらった。ご了承いただきたい。
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