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【改訂版】 A Toadstool Comes up in a Night / 毒茸と楢(オーク)の木 ── クリスティーナ・ロセッティの詩を読んでみる 第4回

14 Comments
さえき奎(けい)
ベニテングタケ ── 幸福を呼ぶキノコ
画像出典:「ベニテングタケ」(2019年7月5日 (金) 03:38 UTCの版)『ウィキペディア日本語版』
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス Ak ccm 氏を著作権者とするこの作品は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 3.0 オランダ ライセンスの下に提供されています。

 トップ画像は、童話の絵本などによく登場する「ベニテングタケ」だ。見た目が毒々しいだけではなく、実際問題として毒キノコなんだが、一般に思われているような猛毒ではない。大量に摂取すると腹痛・嘔吐・下痢を起こすが、死亡例はごく稀だという。毒成分であるイボテン酸は、旨味調味料などに使用されるグルタミン酸ナトリウムの約16倍の旨味成分としても知られており、日本の一部地方では塩蔵して毒性分を弱め、食用としているところもあるそうだ。キノコ大好き人間の俺としては、是非一度食してみたいと思っている(笑)。



"A Toadstool Comes up in a Night"


Christina Rossetti


A toadstool comes up in a night, ──
 Learn the lesson, little folk: ──
An oak grows on a hundred years,
 But then it is an oak.





「毒茸とオークの樹」


クリスティーナ・ロセッティ


一夜ひとよで生え出る毒茸
覚えておいてね、子供たち  
百年かけてオークは育つ
それでも、その大樹オークなの  



(さえき奎 訳)


出典:"SING-SONG – A Nursery Ryme Book"(クリスティーナ・ロセッティ童謡集)1893年 所収
訳者注:"Oak"とは、落葉樹である楢(ナラ)、即ちヨーロッパオーク(ヨーロッパナラ)のことで、常緑樹である樫(カシ)"Live Oak"とは別種の樹木である。明治時代の翻訳家が落葉樹の「オーク(ヨーロッパナラ)」を「樫」と誤訳して以来それが踏襲されているケースが多々あるようだ。残念なことに英和辞典の中にもこの誤訳を採用しているものが多い。本稿では植物学的見地に基づいて「楢(なら)」の訳を採用し、読みを「オーク」とした。

A toodstool comes up in a night
アーサー・ヒューズによる"SING-SONG – A Nursery Ryme Book"のオリジナル挿絵
 残念なことに、この作品には西条八十先生や三井ふたばこ女史の訳が見当たらなかったので、大変僭越ながら拙訳を掲載させていただいた。有名ではないが『クリスティーナ・ロセッティ童謡集』を初めて読んで以来未だに心に残る小品で、多くの示唆に富みイマジネーションを喚起させる印象的な一篇だ。尚、原典所収の作品にはタイトルがつけられていないので、原詩、訳詩とも訳者が仮題を掲出している。併せてご了承いただきたい。

 ちなみに一般的に食用キノコを意味する英語の"Mushroom"とは別の単語で、主として毒キノコを指す"Toadstool"は「蝦蟇ガマの腰掛け」くらいの意味合いを持つ。おそらくこの言葉は、ネイティブ・スピーカーの耳には、何とも禍々しく響くのではないかと思う。

 元記事掲載時に「それでも、その木はオークなの」というフレーズの意味がわかりにくいというメールを頂いたので、少し補足させてもらう。この詩が英国の諺"Great oaks from little acorns grow."(「オークの大樹も小さなドングリから」という意味で「偉大な人物も最初から偉大であった訳ではない、いろいろ努力や苦労を重ねた結果なのだ」との教え)を念頭に書かれたであろうことは想像に難くない。そして英国において楢(オーク)の大樹は"The monarch of the forest"(森の王者)と崇められ、国家を代表する樹木とされているということが背景にある。従って、最も標準的な解釈をするとなれば「百年経って『森の王者』になったんだけれど、それでもやっぱり元はドングリから育った『楢の木』であることには違いないの」ということになるだろうか。ただ、小品なだけに「一夜で生え出る毒茸」と「百年かかって育つ楢の木」の比較から「学問に王道なし」とか「付け焼き刃」といった浅学菲才を戒める意味、あるいは「実るほど頭を垂れる稲穂かな」などと同じく大成しても謙虚さを失わないことへの教訓と捉えるなど、様々な解釈が成り立つと思う。そういった意味でも懐の深い作品だと思う所以である。以上のことを踏まえて、拙訳に少々手を入れさせてもらった。

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  第5回へ行く:I Wish I Were A Little Bird / 望み ── クリスティーナ・ロセッティの詩を読んでみる 第5回  



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さえき奎(けい)
Posted byさえき奎(けい)

Comments 14

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さえき奎(けい)
さえき奎(けい)  
Re: タイトルなし

Anthonyさん、こんにちは。いつもご支援ありがとうございます。

> >昔いすゞのジェミニ・ディーゼルが一世を風靡していた頃、隣家のアイドリング音が やかましいので「車を買い換えたんですか?」と尋ねたら「はい。いすゞにしました」と答えたので「隣の今度の車はエルフか」と誤解されたという笑い話があります。
>
> むっかしのディーゼルエンジンは騒音そのものでしたわ。(笑)

ゴロゴロ、ガラガラ・・・と(笑)。

>  実家が市バスの車庫の近くだったので、うるさくて仕方なかったです。

最近はかなり静かになりましたが、ディーゼルエンジンのメカ特有の音ですから
完全に消すことは無理みたいですね(笑)。

2022/05/15 (Sun) 17:51 | EDIT | REPLY |   
Anthony  

>昔いすゞのジェミニ・ディーゼルが一世を風靡していた頃、隣家のアイドリング音が やかましいので「車を買い換えたんですか?」と尋ねたら「はい。いすゞにしました」と答えたので「隣の今度の車はエルフか」と誤解されたという笑い話があります。

むっかしのディーゼルエンジンは騒音そのものでしたわ。(笑)

 実家が市バスの車庫の近くだったので、うるさくて仕方なかったです。

2022/05/14 (Sat) 20:10 | EDIT | REPLY |   
さえき奎(けい)
さえき奎(けい)  
Re: タイトルなし

Anthonyさん、こんにちは。いつもご支援ありがとうございます。

> >その昔、オークとエルフを勘違いしていて、友人と話がまるで合わず、大恥をかいたことがあります(笑)。
>
> オークとオーガなら、なんとなくわかりますが、エルフとは大違い~~~(笑)

当時はまだファンタジー・異世界ものに疎かったんですよ(笑)。
今も大して強くはありませんが(笑)。

>  その昔、立ち飲み屋でエルフの話をしていたら、隣のオッサンに「いすずのトラックは耳が長いんか~~」って言われました。(笑)
>  いすずにELFトラックってあるからね。。。

昔いすゞのジェミニ・ディーゼルが一世を風靡していた頃、隣家のアイドリング音が
やかましいので「車を買い換えたんですか?」と尋ねたら「はい。いすゞにしました」
と答えたので「隣の今度の車はエルフか」と誤解されたという笑い話があります。

2022/05/14 (Sat) 17:33 | EDIT | REPLY |   
Anthony  

>その昔、オークとエルフを勘違いしていて、友人と話がまるで合わず、大恥をかいたことがあります(笑)。

オークとオーガなら、なんとなくわかりますが、エルフとは大違い~~~(笑)

 その昔、立ち飲み屋でエルフの話をしていたら、隣のオッサンに「いすずのトラックは耳が長いんか~~」って言われました。(笑)

 いすずにELFトラックってあるからね。。。

2022/05/13 (Fri) 20:25 | EDIT | REPLY |   
さえき奎(けい)
さえき奎(けい)  
Re: タイトルなし

Anthonyさん、こんにちは。いつもご支援ありがとうございます。

> ファンタジー、異世界ものの漫画、アニメの見過ぎ(というか、ドップリと浸かっているので)で・・・
>  オークといえば、楢じゃなくて、豚顔の悪鬼しか思い浮かべられなくなってしまっておりまする。。。(笑)

その昔、オークとエルフを勘違いしていて、友人と話がまるで合わず、大恥を
かいたことがあります(笑)。

2022/05/13 (Fri) 18:05 | EDIT | REPLY |   
Anthony  

ファンタジー、異世界ものの漫画、アニメの見過ぎ(というか、ドップリと浸かっているので)で・・・

 オークといえば、楢じゃなくて、豚顔の悪鬼しか思い浮かべられなくなってしまっておりまする。。。(笑)

2022/05/12 (Thu) 20:18 | EDIT | REPLY |   
さえき奎(けい)
さえき奎(けい)  
Re: タイトルなし

くろすけさん、こんにちは。いつもコメントありがとうございます。

> >「オークの大樹も小さなドングリから」
> ボンクラのくろすけにはこれで明瞭になり理解できました。(*^^*)
> 深いですね。

短い詩ですし、本来は母親が子供に読み聞かしたりするための詩ですから、これを
無理やり説明的な翻訳をしてしまうと、返ってリズム感を損ねてしまうのが難しい
ところです(笑)。

> 見た目が真っ赤と言えば、毒キノコと思われてしまうタマゴダケもありますが、
> 初めて出会った時は衝撃的でした。妖しさと共に魅惑のルージュに見えました。
> これがまた美味しいそうで、沢仲間が目の色変えて採っていました。

はい。春に尾瀬や会津方面のブナの森に行くと至るところに生えていますね。ホイル
焼きにするとめちゃんこ美味いです(笑)。ただベニテングタケも降雨の後などでは
あの傘の白いイボが取れてしまいますし、中にはイボが付かない個体もあるそうです
から、傘だけを見ていると間違えてしまいそうです(笑)。しっかりと柄の色の違いを
見分けるようにと師匠から教わりました(笑)。

2022/05/11 (Wed) 19:36 | EDIT | REPLY |   
さえき奎(けい)
さえき奎(けい)  
Re: こんにちは

そふぃあさん、こんにちは。いつもご支援ありがとうございます。

> 子どもの頃にキノコを描くと、ベニテングタケのように赤いかさに白い模様のキノコを描いた記憶があります。
> 絵にかいたようなキノコにも毒あり。

妖精とか小人の家にぴったりですよね(笑)。

> フグの卵巣も珍味として扱われますが、毒と薬も紙一重といったところでしょうか。

毒抜きせずに実食した方のレポートを見かけますが、実際に強烈な旨味があるものの。
しっかりと中毒も起こすそうです(笑)。

> 意外と、危険と思わずに口にして、実は猛毒を持っている…なんていう植物が一番怖いかも知れませんね。

そうなんです(笑)。ベニテングタケと同じテングタケ科テングタケ属のキノコで、
「イチコロ」の異名もある、本当に猛毒の「ドクツルタケ」「シロタマゴテングタケ」
などは、真っ白でこんな毒々しい色をしていないんですよ(笑)。

2022/05/11 (Wed) 19:25 | EDIT | REPLY |   
さえき奎(けい)
さえき奎(けい)  
Re: タイトルなし

がちょーさん、こんにちは。いつもご支援ありがとうございます。

> 立派なキノコですね!!
> 毒キノコですか??

毒キノコです。但し見た目と違って猛毒というほどではありません(笑)。

> キノコと言うと、何故かスーパーマリオのゲームを思い出しますよ(笑)

そうそう、マリオに盛んに出て来るのはこれだと思います(笑)。

> エノキと野菜炒めを食べたくなりましたねww

私はマイタケご飯が食べたくなりました(笑)。

2022/05/11 (Wed) 18:59 | EDIT | REPLY |   
さえき奎(けい)
さえき奎(けい)  
Re: さすがですね。

オグリン♪さん、こんにちは。いつもコメントありがとうございます。

> 見事な解説でした。
> ネイティブな背景がわかるとストンと落ちますね。

ありがとうございます。この"Oak"を「樫」と訳してしまうと解釈の迷路にはまって
しまいます(笑)。

> >それでも、その大樹は楢なの

> ココです、やはり解説が無いと引っかかるトコですよね。
> 毒キノコとの対比で、腐っても鯛か?などとも考えましたが(笑)。

そういう解釈もありだと思います(笑)。このフレーズを説明的に訳そうとすれば
せっかくのリズムが乱れてしまいますので難しいところです・・・などと言い訳をして
みます(笑)。

> 楢の大樹は森の王者とは初めて聴きました。

あくまでも「イギリスでは」ということですね。

> 高級な家具から床材までオークは使用されていますね。
> 無垢フローリングとしても一番人気です。

はい。我が家のフローリングはウォールナットにしてしまって後悔しています(笑)。

2022/05/11 (Wed) 18:57 | EDIT | REPLY |   
まっ黒くろすけ  

>「オークの大樹も小さなドングリから」
ボンクラのくろすけにはこれで明瞭になり理解できました。(*^^*)
深いですね。

見た目が真っ赤と言えば、毒キノコと思われてしまうタマゴダケもありますが、
初めて出会った時は衝撃的でした。妖しさと共に魅惑のルージュに見えました。
これがまた美味しいそうで、沢仲間が目の色変えて採っていました。

2022/05/11 (Wed) 18:29 | EDIT | REPLY |   
そふぃあ  
こんにちは

子どもの頃にキノコを描くと、ベニテングタケのように赤いかさに白い模様のキノコを描いた記憶があります。
絵にかいたようなキノコにも毒あり。
フグの卵巣も珍味として扱われますが、毒と薬も紙一重といったところでしょうか。

意外と、危険と思わずに口にして、実は猛毒を持っている…なんていう植物が一番怖いかも知れませんね。

2022/05/11 (Wed) 14:55 | EDIT | REPLY |   
がちょー  

立派なキノコですね!!
毒キノコですか??
キノコと言うと、何故かスーパーマリオのゲームを思い出しますよ(笑)

エノキと野菜炒めを食べたくなりましたねww


2022/05/11 (Wed) 07:34 | EDIT | REPLY |   
オグリン♪  
さすがですね。

見事な解説でした。
ネイティブな背景がわかるとストンと落ちますね。

>それでも、その大樹は楢なの

ココです、やはり解説が無いと引っかかるトコですよね。

毒キノコとの対比で、腐っても鯛か?などとも考えましたが(笑)。

楢の大樹は森の王者とは初めて聴きました。

高級な家具から床材までオークは使用されていますね。
無垢フローリングとしても一番人気です。

2022/05/11 (Wed) 01:16 | EDIT | REPLY |   

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